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此処は、主人公至上主義の二次創作サイトです。 現ジャンル:「狼陛下の花嫁」 : (管理人の嗜好の赴くまま萬ジャンルで、駄文を書き連ねるためのサイトです。恋情友愛関係なく、主人公は総愛されが基本。時々捏造設定が付加されることも有ります。) 読了後の苦情批判は受け付けません。お好みにそぐわない場合は速やかにお帰りになって、このサイトの存在ごとお忘れください。
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2024/05/04 (Sat)

 サイド小話:11話:「無題」(夕鈴視点で、陛下と口論した夜の葛藤)ど同時間軸で陛下SIDE小話

*心理描写を潔く捏造してます。
*この話で陛下はすでに夕鈴が大好きな設定です。

そしてあからさまに黒いです

*夕鈴が一人で色んな事に葛藤している間、陛下はこんな風に黒々しく内心で呟いてましたと。

*さらっと王宮や後宮の裏事情及び陛下の幼少期に捏造入ります。


以上を踏まえた上でご覧ください。
読了後の苦情批判は受け付けません。




 

 

 

 

「夕鈴は難しい・・・」
 

 

夕鈴の部屋を辞した後、己の部屋に戻った黎翔は思わず呟く。
書簡を抱えた李順が怪訝な表情になったのはわかったが、疲れたように愚痴を続けた。

 


「スイッチがわからん。
 ・・・妃一人でこれじゃ、後宮なんか到底御せる気がしないな・・・」


(夕鈴以外の女の為に、悩む気もないがな)

 


あくまで夕鈴を臨時だと言い張って、いつかしっかりとした後ろ盾を持つ姫を迎える気でいる李順には聞かせられない言葉を内心で付け足しつつ嘆息した。


 

「夕鈴殿を通常基準にされても困るんですが・・・」

 


怪訝な表情を更に複雑なものに変えた李順が答える。
確かに夕鈴を「通常の女性の基準」には出来ないな、と思いながら黎翔は溜息を深めた。

 


「---彼女は、誰に対しても親切すぎる。すぐに人を信じるし」

 



言いながら脳裏に浮かぶのは、氾紅珠の言葉を真に受けるなと言った自分に、激怒した夕鈴の姿。


人の良過ぎる夕鈴が、氾紅珠の縁談について後々思い煩う事が無いように、はっきりと己の意思を伝えておこうと思ったのだが・・・・・・・夕鈴を国王の毒殺未遂犯に仕立てようとした侍女の涙に同情して延命を願ったりした程だ。
何度も和やかに茶を飲み交わして親しく交流を重ねた氾紅珠は、年下である事も手伝って、「守らなければならない」存在になってしまっているのかもしれない。まして、氾大臣には毒蛇から身を挺して庇われた事もある。
こうなったら、幾ら黎翔が警戒を促したところで無駄だ。氾家の思惑を決定付ける証拠でも見せない限り、夕鈴にとって氾大臣も紅珠も警戒の対象外だ。


 

(夕鈴の正直さは・・・得難い資質ではあるんだが、な。
 ・・毒蛇のこともあるし・・氾家め。)


 

穏やかな笑顔の裏で恋敵を蹴落とす策謀を巡らせ、優雅に扇を閃かせながら命を摘み取る指示を出す。後宮とは本来そういった場所なのだ。王の寵愛を争って、美しく着飾った女たちが熾烈な争いを繰り広げる戦場だ。
王宮も大して変わらないが、後宮は見た目が美しい分陰惨さが際立つ醜悪な抗争の場と化す。

幼少時、母の庇護下にて後宮を生活の場の一つにしていた黎翔にとって、後宮の、延いては王宮内の、目を覆わんばかりの醜悪な抗争は当たり前の「常識」であり、外見をどれ程人畜無害に装った人間だろうと、本当に信用できる者など滅多に居ないと知り尽くしている。老若男女も交友期間の長短も身分の上下も関係ない。毒への耐性をつけなければ食事も出来ず、剣を常に携帯しておかなければ物陰には暗殺者が潜み、他愛ない会話からでも言質を取られれば足元をすくわれる。
 

・・それが黎翔にとっての「当たり前」だ。

人間不信と言われようと、己の命がかかっているのだ。早々他人を信用する事は出来ない。



(私ほどではなくとも、一端位は身をもって知ったはずだが・・・・)



陰謀渦巻く王宮の中どころか、生まれ育った街の中でさえ、あれ程に正直な娘は居ないだろう。
誠実で真面目で正直な人柄は夕鈴の美徳だが、それは同時に彼女自身を傷つけるかもしれない諸刃の刃だ。


夕鈴に「あまり他人を信用しすぎるな」と忠告するたびに納得のいかないような抗議の視線を貰ってしまうが、黎翔に言わせれば、夕鈴は他人を好意的に見すぎている。実際に臨時花嫁のバイトを始めた後、監禁されて脅迫されたり、毒殺未遂犯に仕立てられそうになったり、武器を向けられて殺されかけたりと、何度も何度も騙されかけて陥れられかけたりしているくせに未だに他人に対する警戒心が低すぎて、傍で見ていて危なっかしくて仕方がない。
 

何も他人を騙したり陥れたりして己の益を追及しようとする悪人は王宮にのみ生息するわけではない。即位後何度もお忍びで城下に下りて見聞を広げたから知っている。地位も身分も無い一般庶民の中にだって、そういう輩は沢山いるのだ。
 

夕鈴は幼い頃に母を亡くして、父親と弟と三人で暮らし、一家の家計を預かってきたと聞いた。ならば、幾ら周囲のものの助けがあったとは言え、彼女自身がそういう悪人や犯罪者の存在を見聞きした事だって多少はあるだろう。
 

にも拘らず、夕鈴は他人に接する時、まず相手の好意や善意を信じる。
優しげな表情の下に殺意を隠す人間の存在を、身をもって知っているくせに、面と向かって与えられた穏やかさを疑う事が出来ない。方淵といがみ合っていたときの様に、警戒心を持つ事もあるが長続きはしないのだ。

 


 

「・・・狼陛下が怖いくせに・・それでも後宮に居ようとしてくれる。」

 

 


そして呆れるほどにお人よしだ。
例え演技と信じていようと、政務室で直接臣下を叱咤して容赦なく処分する姿だって見ているはずなのに、「子犬」のように穏やかさを振り撒きながら寂しげな表情を作って見せると直ぐに絆される。


 

(いや、「狼陛下」のままでも・・・ちょっと愚痴を零したら真面目に心配されたな)

 


くすり、と内心で笑いながら、方淵とのいがみ合いを言及した時の会話を思い出す。

「狼陛下」を好意的に受け入れてくれても、理想を崩さぬように気を抜くわけにはいかないのだ、といった黎翔に、本当に心配そうに「傍に居る」と言ってくれたのだ。
 

誰もが完全無欠の「狼陛下」と仰ぐ黎翔に向かって、当たり前の気遣いを向けてくれるのは夕鈴だけだ。


二面性を知っている李順でさえ、心の何処かで黎翔を完璧な国王としてみている。

いつで冷静沈着で冷酷非情で公平無比な完璧な王。
睡眠や休息や栄養補給を必要とする人間であると知りながら、それに対する気遣いを忘れないながらも、黎翔ならば助力無しでも何でも出来る、と。喜怒哀楽があり、長所も短所も持ち合わせる人間であると認識しながら、最後には「国王」としての公を迷わず選ぶだろうと、信じているのだ。


勿論そうあるように努力してきたし、これからもそうする積りだ。


それでも、夕鈴が呼吸するような自然さで、黎翔を普通の人間として気遣ってくれるたびに、胸の奥がほわりと温まる気がする。冬の大気に冷やされた手指が、差し込む陽光に暖められて温度を取り戻すときの感覚に似ている。ゆっくりとさり気無く穏やかに、降り積もるあたたかなものが黎翔の心を満たしていく。
夕鈴の傍に居て彼女と言葉を交すたびに、少しずつ育っていく柔らかい感情が、黎翔の心を癒すのだ。

 


 

「・・下らんいざこざで、・・傷つかなければいいが・・」

 



傍に居てくれるだけで良い、だなどと考えるようになるとは思わなかった。
けれど今更夕鈴の存在しない生活など、想像する気にもならなかった。
だから、僅かであっても夕鈴の立場を脅かす可能性を放置して置く気にはならなかった。


・・・・先刻の夕鈴の激昂には驚いたが、元々真面目で責任感が強い彼女の事だ。
例え紅珠への好意が捨て切れなくても、「狼陛下の望まない縁談」の芽を摘み取る為に行動を起こすだろう。直接ではなくとも、紅珠に会うために王の訪問はありえない、程度の牽制はするはずだ。その結果、氾紅珠がどう出るか、考えるだけで溜息が深まる。



(きっと、傷つく)

 


「臨時花嫁」の雇い主である黎翔と李順の意向なのだから、夕鈴が責任を感じる必要はないことだが、きっと夕鈴は自責するのだ。・・・紅珠を傷つけたのは、自分の言葉なのだ、と。


 

「図太いから大丈夫なのでは・・」

 

 


考え込む黎翔の耳に、李順の呆れきった呟きが届いた。
それまでの暗くなり掛けた思考が、断ち切られる。
・・・落していた視線を上げると、本気でそう考えているらしい李順の表情が目に入って、黎翔は肩を落して呟いた。

 



「お前も大概だよな・・」


(・・・・相も変わらず夕鈴に辛すぎないか?その感想は。)

 

 

 

 

 


夜が更ける。

 

 

 


(だが、誰が何と言おうと、私の、僕の、意思は変わらない


  「君が、私の妃だ。・・夕鈴。」


・・・・もう、逃がす積りは、無いんだよ。  ごめんね。)

 


李順の言葉に脱力した振りで顔を伏せた黎翔が、声に出さずに呟いた。
くすり、と漏れた冷たい微笑も、刻一刻と深まる闇に紛れて消える。



それぞれの悲喜交々に関わらず、等しく時間は過ぎてゆく。



そのうちに、また、朝は来る。

 



(・・・早く朝が来ないかなぁ。

 まずは、目先の障害から片付けるべきだよねぇ)

 


夕鈴を傷つけないように、自らが動けば良いのだ、と、冷徹な狼が微笑んだ。

 



(早く、朝に、)




個々の願いなど知らぬ気に、時は等しく移ろってゆく。



(早く)



--誰にも等しく、朝は来る。


 

 

 

 

 

 


















 

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